雨の特別編データ

ここでは幻の回となってしまった「雨の特別編(1991)」についての情報を掲載します

はじめに

「世にも妙な物語」は、当初ナイターシーズンの穴埋め用という側面もありました。
夜8時という放送時間はナイター中継と重なるため、放送が中止になることも珍しくありません。

通常、テレビ局では雨でナイターが中止になった場合に備え、代わりの番組を用意します。
それを業界用語で「雨傘番組」と言い、主に総集編や時勢に左右されないグルメ特番等が用意されます。
これらの番組は後に単発特番として何事もなく放送されることもあるようですが、
雨傘番組としての役目が果せなくなった番組は、そのままお蔵入りになることも多い模様。

「世にも妙な物語」の場合はどうかというと、あらかじめ数回を余分に作っておき、
雨の場合に繰り上げ放送、シーズン終了後に制作本数を調整してトントンに…という手法を取っていたようです。
1992年12月に夕方の再放送枠で初放送された「被害者の顔」が誕生した経緯もこれによるもので、
雨天中止回数の少なさと、ナイターシーズン直後に番組が終了したことで放送枠が確保できなくなったわけですね。

──しかし、世にも妙な物語ファンの皆さんはご存知でしょうか。
実はこの番組には、まだ一度も放送されたことのない『幻の回』が存在しているのです。

初の情報公開

全ては1991年9月12日付の朝日新聞の番組紹介記事にあった以下の一節が発端でした。

12日の雨傘番組「雨の特別編」第3話「あけたままの窓」から (フジテレビ提供)
12日はプロ野球ナイターの為(放送は)中止。
雨で流れた場合に予定されている雨傘番組は「雨の特別編」
野球があった場合、来週は別の番組が予定されており、
「雨の特別編」がいつ放送されるかは決まっていない。

しかし、この日は予定通り西武対日本ハム戦が放送され、同時にナイターシーズンも終了します。
とはいえ、この記事によって「雨の特別編」の存在が初めてファンの間で知られることに。

記事を読む限り「雨の特別編」はこの日の為に用意されたような印象を受けますが、
6月の雨天中止による放送から9月までの間には計4回のプロ野球中継が入っていること、
さらに、ほぼ毎月1回は放送されていた共同テレビ回に2ヶ月の空白期間が存在することなどから考えて、
恐らく6~7月頃には「雨の特別編」が完成し、待機状態であったとみて間違いないでしょう。

2度目の放送チャンス

91年12月に第2シリーズは終了しますが、翌年春には第3シリーズの放送が開始。
またしてもナイターシーズンに突入すると、9月10日にようやく雨によりナイター中継の中止が決定!

いよいよ「雨の特別編」の放送が実現されると思いきや、なぜか通常の回が繰り上げ放送されてしまいます。
しかも、その翌週の9月17日には番組は最終回を迎え、レギュラーシリーズまで完全終了に…。

なぜせっかくのタイミングで「雨の特別編」を放送しなかったのか疑問が残りますが、
9月10日のナイター中継が中止されなければ、他社が制作した回が2本余ることになっていたわけなので、
恐らく番組側には『雨の特別編よりも他社制作回(または通常回)を優先する』という方針があり、
それらを出し切った後の雨天中止枠で放送する措置が取られていたものと思われます。

そう考えれば、前年のナイター中継枠最終日である9月12日に放送が決まった“遅さ”にも納得。
また、最終回翌週の9月24日にも、ナイター中継が雨天中止になった場合、番組の放送が告知されましたが、
この方針を当てはめて考えてみると、恐らく「被害者の顔」の初放送になったとみて間違いないでしょう。

さらなるチャンス到来も…

さらに翌年1993年の4月15日、ラテ欄に『中止の場合:世にも妙な物語』の文字が登場。
今度こそ間違いなく『雨の特別編』が放送されると思いきや、こちらは通常通りナイター中継を放送。

さらに同年9月9日に再びチャンスが訪れますが、こちらも同様の結果に。
そして、この日を最後に雨天中止枠に番組名が登場することはなくなるのでした…。

2度目の新聞記事

さらにまた翌年の1994年の朝日新聞に以下のような記事が掲載。
そこで2度目となる「雨の特別編」の話題が触れられました。

『はてなテレビ 「野球中継で番組編成は」』

( Q ) プロ野球中継が雨で中止になった6月9日、
フジテレビ系のドラマ「17才」(木曜夜8時)を見ていましたが、
先週の予告とは違った内容でした。番組終了後の予告は先週と同じ予告でした。
すると雨でなければその週に放送された作品はいつ放送されるものだったのでしょうか。
野球中継の有無による番組編成について教えてください。
(東京都 Oさん 主婦 31歳)

( A ) バラエティー番組と違い、連続性のあるドラマをナイターシーズンに放映することは、
各局とも頭を痛めているようです。「17才」編成担当の石原隆さんに話を聞きました。

9日放映の作品はもともと雨中止対策として作られた1話です。
5月12日から雨待ちをしていて、この日に日の目を見ました。

7人の若者たちの青春群像を描く「17才」は基本的に1話完結方式で作られています。
しかし、ドラマだけにある程度の連続性があります。
そこで雨対策の作品は7人の出会いの場面を描く回想ものとして作られました。

ナイターシーズンのドラマでは「17才」のように雨用の1話を用意する方がまれで、
全く違ったバラエティー系の特別番組を用意する場合が多いようです。
「17才」も今後は雨用の番組は作らず、特別番組でつなぎ、
すでに全14話で9月に終了することが決まりました。

過去にはオクラ入りになったケースもあります。
フジテレビでもこの時間帯の前の番組「世にも妙な物語」では、
4年間放映されないままの「雨の特別編」という「名作」(?)が埋もれたままだそうです。

(1994年7月2日 朝日新聞より)

なんと94年の時点で既にお蔵入りが決定したことがハッキリ明言されています。
恐らく「雨の特別編」と言うタイトルの示すとおり、雨の日に放送する必要があるため、
再放送枠で放送する事がためらわれたままズルズルと時間だけが過ぎ、お蔵入りが決まったのでしょう…。

こうして「雨の特別編」は人々の記憶から徐々に忘れ去られていくのでした──

雨の特別編の内容とは

気になるのが「雨の特別編」とは一体どんな内容なのかということ。

そんななか、貴重な制作台本やデータをお持ちの方々の協力により、その全貌がようやく判明。
『雨の中やってくる奇妙な訪問者』というコンセプトを基に、
ストーリーテラーによる朗読劇を中心とした超実験的な回になっていたのです!

「雨の特別編」用に作られた各話の簡単な紹介は以下の通り。

第1話「猿の手」

原作はW・W・ジェイコブズの「猿の手」
テラーによる映像付きの朗読劇。

第2話「酒場で聞いた話」

本回唯一のドラマ作品。主演はみのすけ。
雨の酒場に立ち寄った男が、客の語る3つの話(原作:星新一、高井信、B・ペロウン)を耳にする。

第3話「あけたままの窓」

サキ原作の同名作品が原作。
テラーによる映像付きの朗読劇。

初の映像解禁

雨の特別編タイトル

2015年10月23日、フジYouTube公式Chにて配信された「世にも妙なマニアトーク」第5回内にて、
制作から24年越しに「雨の特別編」の映像が初公開されました。

スタッフの方の話によると「マニアトーク」収録時点では、
『社の保管リストに記載されておらず、マスターテープ自体が行方不明』だったそうですが、
配信までの間に、スタッフの方々による発掘調査で無事完全版が発見された模様。

しかし、せっかくマスターテープが発見できたにも関わらず、
一部テラーパートと「あけたままの窓」による約1分程のダイジェスト版に留まってしまいました。

全編解禁の可能性は

全編公開を期待していたファンが多かったものの、現在まで実現する様子はありません。
これに関しては、恐らく海外の小説を贅沢に使っていたことがネックとなってしまったものと思われます。

海外原作は再契約に手間がかかり、版権料もかなりの高額になる事が多いらしいため、
過去「夢を買う男」「23分間の奇跡」といった海外原作のエピソードは30年以上再放送されていません。

今回「あけたままの窓」は既に原作の著作権が切れていたこともあって、公開出来たようですが、
番組公式Twitterでは「二度と見れません」「今だけの公開です」と念を押されており、
現時点での全編公開はかなり厳しいであろうことが窺えます。

しかし、今回行方不明だったマスターテープが無事に発掘されたことは奇跡。
今後しっかり管理されることになるでしょうから、紛失・散逸する心配もほぼ無くなりました。
いつか完全版が公開されることを期待して、その日までじっくり待ちたいですね。